赤外映像観測は遠隔観測(リモートセンシング)の一つで、危険である等の理由で近くに寄ることができない対象物の表面温度を遠くから測定することができます。対象物の表面から放射される波長8〜14μmの赤外線の強度を測定し、それを表面温度に換算します。この換算した温度を放射温度と言います。観測では赤外カメラを使用しているため、面的に地表面温度分布が得られます。当研究室では1995年5月から現在の観測装置で九重硫黄山の赤外映像観測を実施しており、1995年10月の噴火前と噴火後の地熱異常地域の違いを映像として捉えることができました。現在も観測を継続しており、噴気温度や地熱異常地域の広がりの変化を調べています。

赤外映像観測風景(北千里浜定点)

 1995年10月11日の噴火でできた新火口(a1、a2、a2'、a3、b、c、d、e各火口)の中で、a1、a2、a3火口は現在は活動を停止しています。またe火口の放射温度も1995年12月22日以来低下し続け、1997年5月10日の観測では噴気は停止していました。
 噴火当初から最も活発な活動を続けるd火口の放射温度は、1995年12月22日の火山灰を伴う噴火までは上昇し、その後1996年3月初旬に一度上昇した以外は低下傾向を示していました。しかし1996年8月初旬からは再び温度上昇の傾向を示しています。1997年6月27日の観測まではその傾向は変わっていませんでした。1997年8月8日の観測では、観測条件が悪いことも考えられますが、d火口の放射温度は低下していました。
 噴火2周年となる1997年10月11日は、ほぼ快晴の天気でしたが北西の風が非常に強い中での観測でした。北千里浜定点の観測では、d火口の放射温度は118℃に上昇していました。また、d火口の下にあるe火口も高温部としてはっきり確認できるだけでなく、肉眼でも噴気を上げているのが見え、噴気活動再開を確認しました。
 その後もd火口の温度上昇傾向は続き、噴火3周年となる1998年10月11日には、1995年12月の温度にほぼ匹敵する185℃という放射温度を示しました。

 2000年7月21日の北千里浜定点の観測では、d火口の放射温度は約90℃であり、2000年4月の観測時に比べて低下しました。1998年10月からの温度低下の傾向の上に数か月程度の周期の変動が乗っているように見えます。
 また、d火口の向かって右上側には40〜50℃程度の高温部が依然として確認できました。この部分は直接噴気を出しているわけではありませんが、周辺の地表面が黄色から茶色をしているのに対し、この部分は灰色を呈しています。
 e火口は、火口自身は肉眼では明瞭ではありませんでしたが、非常に弱い噴気活動が確認でき、赤外映像ではd火口の下に40℃程度の温度異常部として確認できました。

        可視



(2000年7月21日)

赤外

(1997年3月28日)

        可視



(2000年7月21日)

赤外

(a1火口はA-region定点より、d火口、e火口は北千里浜定点より観測)